犬の遺伝子検査に関する正しい理解について
  • □ 遺伝子検査を正しく理解しましょう
     最近、遺伝病や遺伝子検査について、ご質問が増えて参りました。ブリーダーの方々をはじめ一般の愛犬家の皆様にも遺伝病や遺伝子検査への関心が高まってきていることを実感しております。そこで、遺伝子検査を正しくご理解いただくために、改めて遺伝子検査とはどういう検査であるのかについて書きたいと思います。犬の将来のために、これから検査をされる方、すでに検査をされた方も読んで頂けると幸いです。
  • □ 遺伝子検査は疾患発症の有無を100%保証する検査ではない
     遺伝子検査は疾患の発症に関連することが報告されている遺伝子変異(遺伝病を引き起こす遺伝子の誤り)を調べる検査です。検査依頼の多いPRA(進行性網膜萎縮症)を例に取って話を進めたいと思います。検査結果の「ノーマル/クリア(両親から正常な遺伝子を受け継いでいる)」という判定は、「(現時点で)疾患の発症に関連することが報告されているという遺伝子の変異箇所についてのみ、正常な遺伝子をもっている」という意味となります。犬がもつ全ての遺伝子が正常という意味ではなく、PRAにならないという意味では決してありません。従ってPRAの検査を受けてノーマル/クリアと判定されたからといって、「絶対PRAにならない」ということが保証されたわけではないことを理解しておく必要があります(常染色体劣性遺伝様式を示すPRAのタイプの場合、キャリアについても同じことがいえます)。
     PRA検査でノーマル/クリアと判定された犬が「絶対PRAにならない」と言えない理由はとても簡単です。それは検査対象の遺伝子変異よる疾患の発症が起こらなくても、現時点では発見されていない遺伝子変異が原因でPRAを発症する可能性が考えられるからです(実際、未知の遺伝子変異によるPRAが起きている報告があります)。以上のことから遺伝子検査は、決して疾患発症の有無を100%保証する検査ではないことになります。
  • □ PRAは遺伝病の一つに過ぎません
     PRAの遺伝子検査において「ノーマル/クリア」という判定が犬の全てを判定しているかのように誤解されている方もいるのではないでしょうか?正しい理解が遺伝病を減らす第一歩です。PRAが遺伝病の全てではありません。犬の遺伝病は現在500程度知られていますが、PRAはその内の一つに過ぎません。犬種によって色々ですが、PRA以外にもヘルニア、てんかん(癲癇)、股関節形成不全、停留睾丸など遺伝病は実に様々です。
     毛並み、外観(体型)、性格(気質)などの良い形質(犬質)を捨ててまでPRA排除に固執するのか?PRAの検査においてノーマル/クリアであったとしても他の遺伝病をもっていてもやむを得ないのか?考え方は人それぞれですが、どこに重きを置くか、つまりどこを優先的に排除し、どこを守る(残す)のか、全てはそのバランスのように思います。多くの犬は人為的に繁殖されています。このことはつまり自然界にはない人為的な選抜が行われていることになります。繁殖の際、やみくもにノーマル/クリアの個体に限定して交配することで、かえって遺伝的な多様性が損なわれ、別の(もしくは新たな)遺伝病の出現(顕在化)を招きかねないことも可能性として知っておく必要があります。このように徐々に遺伝病の原因を排除していくことが重要だと思います。
  • □ 遺伝病のリスクを知って愛犬と共に生きる
     遺伝子検査の結果によっては犬を大切に思わなくなってしまう方もいるかもしれませんが、このようなことはあってはいけません。これでは動物愛護の観点からも本末転倒となってしまいます。どのような結果においても遺伝的な差別があってはいけません。決してこの遺伝子検査が犬全ての優劣を決めるわけではありません。日本ではまだまだ一般化されていませんが、人においてもすでに遺伝子検査があります。自分の家族・友人を遺伝的に差別しますか?犬は家族の一員であることを肝に銘じて、飼育・繁殖することが愛犬家としての責務であると思います。誤った知識から来る根拠のない偏見・差別を避けるためにも、遺伝病や遺伝子検査に関する正しい知識の普及を図ること、そして獣医師等にいつでも相談できるような体制の整備などが今後の重要な課題といえます。
  • □ なぜ遺伝子検査をするのか・・・現時点でベストな選択だからです
     ここまで本文を読んで、検査する意味がないのでは?と思われた方もおられると思います。残念ながら遺伝病の多くは治療法が確立されておりません。だからこそ交配前の遺伝子検査が遺伝病を減らす有効手段となり得るのです。遺伝子検査の意義は、疾患の発症に関連する遺伝子変異を調べることにより、仔犬へ伝わる遺伝病のリスクと可能性を減らすことです。このことが遺伝病を減らす第一歩であり、5年後、10年後に生まれてくる犬たちが健康であるために、遺伝子検査は多くの力を発揮してくれるのです。このような理由から、遺伝子検査は遺伝病を減らす現時点でベストな選択となり得るのです。
     最後に、遺伝子検査は不必要に不安をあおるものではありません。繁殖をする・しないに関わらず、現在は発症していなくても、将来の発症リスクを知ることができる重要な検査です。リスクを事前に知ることで、今後どうしていくのかを時間をかけて考えることができます。このように犬の特性(遺伝子型)を知ることにより、血統の維持、安定した繁殖、優良犬の育成に繋がり、結果として遺伝子検査は犬と人との生活の質(QOL: Quality of life)の向上に繋がる検査であることも間違いありません。我々は、このような点をサポートできればと思い日々検査を行っております。
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